in situ hybridization 2026年version

2026年version
この15年でISHは大きな変貌を遂げています。RNAscopeに代表されるmultiplexかつ高感度な検出。Spatial transcriptomicsによる網羅的な解析。いずれも論文でよく見ますが、ちょっと否定的なことを述べておきます。


RNAscope
信号が弱すぎて、ファインダーを通して信号を見ることが難しい。言い換えると、いくらでもノイズから画像を作れてしまう。僅かなノイズを、信号と断じるには、様々なコントロール実験を組み合わせなければならないが、殆どの実験はそれを省略している。「会社が大丈夫と言っているから」この信号は大丈夫。そんなことを主張する研究者は信用できますか?RNAscopeで十分に強い信号は、従来型のFISHでも同じ。わざわざRNAscopeを使う必要性が無い。真に高いレベルでRNAscopeを使いこなしている論文かどうかを見極めるべき。


Spatial transcriptomics
野生型を対象とした公共データは大変役立つ。AllenのMERFISHは学生に常時参照させるようにしている。これの欠点は、同じqualityで、病態脳のMERFISHを行うのが技術的にも、予算的にも難しいこと。

では、このラボではどうしているか。今も、2012年versionと変わらず、NBT/BCIPによるcolorimetric ISHと、TSAを用いたFISHの2つです。その手順を大雑把に紹介するとともに、参考になるコメントも残します。

1) まずは関心遺伝子のmRNA発現を公共データでざっと調べる
いわゆるcolorimetric ISH: https://mouse.brain-map.org
Single cell data: https://celltypes.brain-map.org/rnaseq/
MERFISH: https://brain-map.org/bkp/explore/abc-atlas

2) cRNA probeを作る
すでにvalidateされたprobeの鋳型plasmidを他の研究者からもらう、というのが一つの手段。最近は、FANTOM cloneを購入し、その全長を使うことが殆ど。かつてISHprobeの長さとして何が適当なのか議論があったが、今は、「長ければ長いほど良い」と私は見做している。5,000塩基でも全然OK。短さの最小は150 bp。ただし、短いprobeは、遺伝子発現量が高い遺伝子に限る。

3) NBT/BCIPによるcolorimetric ISH
これが基本。一緒に検鏡し、目を慣らす。ポジコン、ネガコンを幾重にも仕込む。コントロール切片を検鏡するときの一例;Csfr1(c-fms)は、microgliaにしか信号が出るはずがないprobe。これで神経細胞にうっすら信号が見えれば、全体としてノイズが高かったラウンドだったと理解する。Csfr1 ISHは突起まで信号が見えるのが正しいが、somaにしか信号が見えないときは、全体として信号が弱かったラウンドだと理解する。検鏡の際のポイントはこれ以外にも沢山ある。スライドを持参してくれれば、他のラボの方でもアドバイスできます。

4) ISHが壊れるとき
不注意な初学者の出現により、システムはすぐに壊れる。メンバーの人数が少ないときは数年に1回、信号が出なくなったが、近年は年に数回信号が出なくなる。その都度、ゼロからシステムを作り直している。壊した学生を責めるつもりはなく、むしろトラブルシューティングから学んで欲しい。
私自身も、生理研池中研究室でできあがったシステムに乗っかってISHをやっていて、ISHができるつもりでいた(2006年まで)。しかし、コロンビアに留学してゼロからシステムを立ち上げる必然性が生じた。試薬を一つ一つすべて準備することを通じて、はじめて技術が身についた。レールに乗っかっているうちは、一人前ではない。

5) 当研究室がISHに頼る理由1
tTA, tTSによって遺伝子発現を操作する、AAVによって遺伝子発現をもたらす。狙ったとおりに遺伝子発現が変わっているのか、研究者自身が検証しないといけない。抗体を用いた免疫染色もパワフルな検証技術だが、自分が操作している分子を検出できる抗体があるとは限らない。その点、ISHはあらゆる遺伝子を検出できるといって過言では無い。そのためISHを頻用する。

6) 当研究室がISHに頼る理由2
細胞数を数えるときにISHが優れています。皆さんに問いますが、アストロサイトの数を数えるときにどうしますか?GFAP IHCをしますか?オリゴデンドロサイトの数を数えるときにどうしますか?MBP IHCをしますか?当研究室では、各細胞種の数を数えるときにどの遺伝子ISHを行うのか決めています。

7) 当研究室がISHに頼る理由3
c-fos, Npas4, Arcなどの最初期遺伝子の検出にはISHが優れていると思います。イベント発生から5分で最初期遺伝子mRNAは検出できますので、タンパク質を検出するより優れていると考えています。また怪しい抗体が多いですからね。